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​ME MOON

​天秤座の満月

 Lucif & the Balance - ルシフと天秤

「おやおや…… 普段…… そのドアは開かないのだけれどのう……」

「ふむ…… ということは、もう今宵は満月かのぅ?」

「ここにいると時間が経つのが早くて困るわい…… 」

「黒猫?お嬢ちゃんには、わしがそのような姿に見えるのかい?」

「ふむ…… いつもは、ライオンだったり、カバだったり、ワニだったりするのだけれどね……」

「黒猫…… そんな姿も良い…… 今宵の満月は黒猫として過ごそうかのう……」

「わしの名はルシフ…… 」

「ミーム。ふむ…… よい名じゃ…… お嬢ちゃん」

「お嬢ちゃんが、そのドアから入ってきたということは、今宵はここで一晩過ごしてもらうことになる……」  

「なぜかって?」

「ふむ…… そのドアには“アルファ”という名がついておる」  

「アルファは、いわゆる出口なのじゃ。出口から入ることは許されておらん…… 」

「じゃが…… 満月の晩に選ばれた者のみ出口である“アルファ”からこの部屋に入ってこれるのじゃ」

「そして今宵、お嬢ちゃんが選ばれたというわけじゃ…… 」

「なぜ?お嬢ちゃんが、選ばれたのかって?」

「ふむ……お嬢ちゃんは、何かを探して旅をしているのではないかい?」

「今宵の満月、ここにお嬢ちゃんが探している何かがあるかもしれない……」

「なに臆することはない…… 簡単な手伝いをして欲しいだけじゃ……」

――――

――――  

「ふむ……やってくれるのかね?それはそれは、ありがとう……」

「まあ……もし、お嬢ちゃんが断わろうと、満月の間の一晩は、どうやっても、ここから出て行くことはできないのじゃがね……」

「天秤。そうこれは天秤じゃ……アヌビスの天秤と呼ばれておる」

「そして、わしがこの一方に乗る…… よいしょ」

「ふむ……わしの姿が可愛いだって?…… はぁ…… しょうがなかろう……」

「今宵、わしの姿は黒猫なのじゃろ?黒猫が天秤に、ちょこんと乗っている姿は、さぞかし可愛いかろう?」

「おい!わしを撫でまわすでない。こら!喉をさわるな!……わしに触ることは許さぬ……」

「これから、おこなう仕事は重要なものじゃ。わしは集中せねばならぬ!心してかかるがよい!」

「油断も隙もないお嬢ちゃんじゃ……」

「ふむ…… お嬢ちゃんが入ってきたドアの反対側に、もう1つドアがあるじゃろ?」

「あのドアが入口じゃ。“オメガ”と呼ばれておる。今宵“オメガ”から何人か客人が訪れる…… 」

「客人はみな“イブ”と呼ばれているものを持ってくるのじゃ」

「お嬢ちゃんは、その客人から預かった“イブ”をもう一方の天秤に乗せるのじゃ……」

「そして、わしと客人から預かった“イブ”の重さをこの天秤で比べるのじゃ」

「ふむ…… それだけじゃ…… 簡単じゃろ?」

「さぁて…… さっそく客人が訪れたようじゃ。そう……客人から預かったその“イブ”を天秤に乗せるのじゃ……」

「そうそう……ていねいに……ていねいに……」

――――

――――  

「ふむ……よぉし……わしの方が重いようじゃ!」

「あ〜ん……これは、わしが食べてまう!っと」

「ふむ……ふむ……サイダー味じゃのう」

「わしが“イブ”を食べたことに驚いたって?……なぜ?食べるのかって?」  

「ふむ……それは、これが今宵の、わしの仕事だからじゃ……ええい!細かいことは良い!次の客人じゃぞ」  

「客人から預かった“イブ”を天秤に乗せるのじゃ……」

――――

――――  

「ふむ……よぉし……わしの方が重いようじゃ!」

「あ〜ん……これも、わしが食べてまう!っと」

「ふむ……ふむ……いちご味じゃのう」

「次……じゃ」

――――

――――  

「ふむ……よぉし……わしの方が重いようじゃ!」

「あ〜ん……これも、わしが食べてまう!っと」

「ふむ……ふむ……チョコレット味じゃのう︎」

「次……じゃ」

――――

――――  

「次……じゃ」――――「次……じゃ」――――「次……じゃ」――――「次……じゃ」

――――

――――  

「ふむ……少しは休ませろと?」

「そうじゃのう……もうそろそろ、明けの明星が輝かねばならぬ時間じゃうのう……」

「今宵の満月も、そろそろ終わりか……残念じゃ……」

「あんなに“イブ”を食べたのに、まだ足りないのかって?」

「足りぬ!わしはいくらでも“イブ”が欲しいのぅ……それにこれはれっきとした、わしの仕事じゃ!」 「しかし、勘違いするでないぞ、お嬢ちゃん」

「わしが残念なのは――――」

「おや?また客人が訪れたようじゃ……残りの時間を考えると今宵の最後の客人となるかのう……」

――――

―――― 

 ミームは一晩中、手伝ってきたように、その客人から預かった“イブ”を丁寧に天秤に乗せます。

すると、どうでしょう、今までの客人の時とは違い、ルシフと名乗る黒猫よりも、客人の“イブ”の方に天秤が傾きました。  

 その瞬間、ミームが入ってきた“アルファ”と呼ばれているドアが開き、あたり一面が“キラキラ”輝きました。

 それはそれはとても眩い光で、気がつくとミームは三角亭のあるY字路に立っていました。

あたりを見回しても、ルシフと名乗っていた黒猫も、天秤も“アルファ”と呼ばれていたあの不思議なドアどころか、三角亭以外の建物は見当たりませんでした。

ミームは不思議に思い、Y字路から天気輪の柱のある丘まで戻ってみました。

ところが、どんなにあたりを見回しても、そこにあるのは、うっすら消えていく大きな満月と、その側に輝き始める明の明星だけでした。

 

天秤座の満月

​バランス | 裁定 | 社交的 | 主体性

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Illustration : mio.matsumoto   Text : mio.matsumoto & Shun