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​ME MOON

​蠍座の満月

 Trout Fishing in Milky Way - 天の川の鱒釣り

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 輝きはじめた明けの明星をぼんやりと眺めていると、その明星から突然  ”キラキラ” と輝く光が、ぴゅんと生まれ出ました。そのまま光は流れていくので、ミームは追いかけましたが ”キラキラ” と赤く輝きながらアーチ状の軌跡を残して、天の川のほとりの大きな湖の方に消えていってしまいました。

 ミームはあきらめずに光を追って湖にたどり着くと、水面から立ちのぼる朝靄の中に、先程の赤い ”キラキラ” だけでなく、金や、銀や、青だったり、緑だったり、いくつもの ”キラキラ” が弧を描きながら、ぴゅんぴゅんと飛びまわっているのが見えました。

​ 「わぁ……きれい ……」

 ミームが朝靄をかき分けながら ”キラキラ” たちに近づくと、そこでは何人もの釣師たちが、竿を振りかぶり湖に釣り針を投げ入れていました。釣り糸の先の針は ”キラキラ” とまるで生き物のように宙を飛び、遠くの水面に落ちていく景色がとてもきれいでした ―――

 

 「どいておくれ!ここは、あたしのポイントだよ!」

 ミームは急に声をかけられて、誰かに腕をグイッと掴まれました。驚いて振り向くと、そこには長い黒髪の女性の釣師が怖い顔をして立っていました。

 「ご、ごめんなさい!つい …… 宙を舞う釣り針たちが、あまりにもきれいなので、見入ってしまって ……」 驚いてミームが謝ると、

 「う〜ん?あんた、その格好 …… 釣師じゃないね?」

 「考えてみりゃ、女の釣師なんて、あたし以外ここにはいないか ……」

 「ごめん!ごめん!ちょっと乱暴しちまった。あんたのこと、他の釣師かと思っちゃって」

​ 釣師の女性はミームの肩をポンポンとたたきながら「あたしは釣師のクルスっていうんだ。よろしくな!お嬢ちゃん」と言い、ミームの手をぎゅっと力強く握ってきました。

 「はじめまして。わたしはミーム。ここが釣師さんたちの漁場だと知らずに入ってきてしまって、ごめんなさい」

 「う〜ん。気をつけなよー?この時期の釣師はみな1匹でも多く釣る為に気が立っているのさ」

 「ここは、あたしが見つけたポイントなんだけれどさ、他の釣師が横取りしやがったと思って、あたし早とちりしちまったよ ……」

 そう言いながらクルスは、釣竿をぴゅんとふりかぶって湖面に釣り針を垂れました。

 ミームには、その姿が何だかとても ”キラキラ” して見えました。

 「あの …… もし、よかったら邪魔にならないようにするので、クルスさんの釣りを見ていって良いですか?」

 ミームがそう尋ねると。クスルは少し黙ったまま湖面を眺めてから「いいよ?ただし、あたしが使うこの釣り針に気をつけるように。あたしの釣り針はサソリの針を精錬したものなんだ。慣れないやつが触るとビリビリと痺れちまう」

 「こんなに赤く ”キラキラ” ときれいなのに ……」

 「はは。きれいなものには、み〜んな、毒があるのさ!あたしみたいにね?」と言ってクルスはケラケラと笑いました。

 それからクルスは少しの間、釣師たちのことについて話してくれました。この湖は『ケンタウルスの腕枕』と呼ばれていて、天の川の上流からの緩やかな流れに乗って、コロコロと運ばれくるコンペイ糖のような星のかけらたちが堆積して、川の流れを押し止めてできた湖だということ。そして湖底に堆積した星のかけらたちは『マナ』と呼ばれていました。

 「このマナってのはコロコロしていて、きれいだけれど、毒があるんだよ」

 「でも、人にとっては毒だけれど、天の川鱒たちにとっては、とても重要な栄養源なんだ」

 「特にね、このナール節の時期は、天の川鱒たちの産卵時期でね」

 「天の川の上流へ登る力を蓄えに、たくさんの天の川鱒たちが、湖に堆積するマナを食べにくるのさ」

 「ナール節は、あたしたち釣師にとっては稼ぎ時なのさ」  

 

 ナール節は、この地域のお祭りで、天の川の上流から死者の魂が流れに乗って生者のもとに帰ってくるとされている季節でした。そして無事に生者のもとに帰れた死者の魂は、審判を受けて生者へと生まれ変わる。そんな伝説がありました。

 

 「この時期の町のやつらは、ナール節の祭でみんな、うかれているのよ」  「女たちは、きれいな浴衣なんて着ちゃってさ …… それ目当ての男たちがワイワイと騒いで ……」

 「でも、天の川鱒たちはマナを求めて、あたしたち釣師たちは天の川鱒を求めて、毎日おいかけっこさ」

 「お祭り気分に浸っている余裕なんてないのよ …… ナール節の時期しか、特別な天の川鱒は釣れないのだからさ」

 クルスたち釣師は、この時期の天の川鱒を釣ることを専門にしていました。『マナ』を食べた天の川鱒は特別な鱒です。本来、天の川鱒は非常にデリケートで神経質なので、網などで引き上げて獲ろうとすると、傷ついてすぐに死んでしまいます。水中で死んでしまった鱒は、引き上げると白雲母が砕け散るように、粉々に宙に散らばって消えてしまうのでした。その為に釣師たちは、網などを使わずに、針と糸で勝負する1本釣りをしなければならないのでした。

 釣り針で殺さずに釣り上げた天の川鱒は、湖の空気と共鳴して、鱒の形のまま固まって、とても良質な砂糖の原料になるのだそうです。天の川鱒によって無毒化されたマナの成分は『マナ糖』と呼ばれて、人気が高いらしいのです。それに天の川鱒の形を美しく残したまま固まったマナ糖はとても高価で、美術蒐集品にもなっているのでした。

 「あたしたち釣師はナール節の時期に、このケンタウロスの腕枕で、たくさん鱒を釣って、秋から冬の間は天の川の下流の方に、マナ糖を売る行商の旅に出るのさ」

 「そしてまたナール節が近づくと、このケンタウロスの腕枕に戻ってきて、天の川鱒を釣る」

 「あたしたち釣師も、天の川を登ったり降ったり、天の川鱒やナール節の死者の魂たちと同じなのかもね ……」

 そう言いながらクルスは、また少しだまって湖面をみつめていました。 ―――――― 

―――――― 

か、と思うと、ぴゅんと竿を引き上げた釣り糸の先には、見事にとても大きな天の川鱒がかかっていました。湖の空気に触れると天の川鱒は、たちまち”キラキラ”と結晶化して、きれいな鱒の型を残したままのマナ糖へと変わりました。

 ミームは思わず、はっと息を飲みました。

 「どうだい?すごいだろ?あたしの腕前」

 「あたしは、この竿1本で、天の川鱒を釣り上げるのが大好きなのさ。1対1の勝負って感じで!」

 そう言いながらクルスはまた、釣竿をぴゅんとふりかぶりました。釣り糸から滴る水滴が 日の光を受けて”キラキラ”と虹色に輝きました。湖の澄んだ空気と静けさに混じって、どこか遠くの祭囃子がきこえてきました

 

蠍座の満月

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